営業の田中は発注をよく間違える。 「田中君、何だねこれは!」 「え?なんですか?」 トンネルを抜けると、うみがみ・える 「電話で何ていって確認取ったんだ」 「うみがみ・えるじゃない方で」 「本当か?うみがみ・えるが届いてるみたいだぞ」 「おかしいな。ちゃんと発注しましたよ」 いつものことである。 「うみがみ・えるとうみがみ・えぬでは全然違うぞ」 「えー、だって、『える』の反対は『えす』ですよね」 「何だって??お前まさか、 『うみがみ・えす』って発注したんじゃないだろうな」 「はい」 「おまえよくカタログ見ろよ。 『うみがみ・えす』なんてどこにもないだろう!!」 「えー、じゃあ、『える』の反対が『えぬ』なんですか?」 「事故が起きたらどう責任取るつもりだ」 田中にはまだまだ勉強することがたくさんあるようだ。 夜な夜な田中の勉強する声がきこえる。 「海神 L 海神 N 浅間 C あたま E 圧釜 C 犬ヶ湖 Y カラー湖 P 少女湖 Z Gだ胃をくれ ジン・ルイノ H くさや Q 好好爺 Q 北楚 M 動きガニ V 扇子菓子 V 修身 K 太陽 K ………」 (うた) 寝しなに生まれる営業の田中 56億7千万匹の羊 それでもトナカイの乳房は切られ 汽車は連なる まるで効かない冷房の田中 56億7千万℃の設定 それでも法螺貝でイグサは煮られ 油は漂う (間奏) 「あ、田中君、おかえり。」 「ほら、お茶のみなよ。」 「リーーーン」 「わるい。田中君とって」 「はい」 「あ、これ終わったら上がっていいからね。 労働時間短縮に協力しなくちゃ」 (間奏からイントロへ) 電話に出れば営業の田中 56億7千万件のクレーム それなら田中(かれ)は何を悟り 誰に説くのか 誰も耳を傾けるか オルゴール鳴るだけ それでも社員はみな帰り 明日またサバ読む やがて2つの坊ちゃんが 数学習う歳になり 太陽の陽をみないまま 見渡すかぎり空いたイス あんまりだあんまりだ 哀愁転送 あんまりだあんまりだ 意味をなくした時短 (間奏) 「ダメだ。 うちももうこれまでか」 「まずいぞ。身ぐるみはがれる前に時間をかせがないと。」 「そうだ。田中にかぶせてしまえ。 おお、田中くん、がんばってるね。よろしくたのむよ」 (間奏からイントロへ) 見積り出せば営業の田中 56億7千万円の隔たり それでも戦いの火蓋は切られ 死者は連なる 集金行けば営業の田中 56億7千万円の焦げ付き 悪魔は何をさそうのだろう 憎しみも潰えて 廃墟と化した本社ビル 歩く者ないショールーム それともすべて塵と化し 乾いた雑巾かけるのか 債権を 債権を 回収せんと くされ外道 くされ外道 しばかれるしかない終末 「TOKYO WANGAN 〜〜」 |