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2 私の知らない子どもの原風  春の暖かい日、一緒に出かけた時に、中学を卒業したふにょがこんなことを言った。
「こんな日に、前の家ではベランダの手すりに布団が干してあって、そこで昼寝をするのが好きだった」
前の家というのは、辰巳に越してきてはじめに住んだ家のこと。 1階だったので、手すりで寝ても、安心だったのか?? それにしても、いつの話??手すりで寝られる大きさだったってことは、まだ、小学生になる前?
それとも、低学年のとき??辰巳に越してきたのは、5歳の時だったから・・。
━―そんな話、初めて聞いたよ。 一緒に暮らしていても、見ていたものは、まったく違うということもあるのか。 『天空の城 ラピュタ』という映画がある。この映画のテーマ曲は「君をのせて」という曲である。
辰巳に越してきてから、我が家の幼い兄弟は、二人でお留守番という日があった。
両親は、たぶん、芝居の稽古か、それとも、会議があったのか・・・?
で、そのお留守番のときに、二人で『ラピュタ』を見て、最後に流れる「君を乗せて」の
とうさんがのこした あついおもい
かあさんが くれた あのまなざし
       というくだりで泣いてしまった。らしい。てこなの報告によると。
「へー、小さいくせに、映画観て泣いたりするんだ」と、びっくりしたものである。
が、私は、その場にいなかった。私の知らない風景、である。 その時の住宅は、
この春、地震に耐え切れないという理由で取り壊された。
耐震検査に引っかかったのが、7年前。
それからいろいろ迷って、
なにも辰巳を離れることはないなと考えて、
辰巳のここに越してきたのが5年前。
こっちに越してきてからのほうが、
子どもとは一緒に暮らしている時間が
           なくなったように感じるが、
ここで子どもたちは、今度は何を見ているんだろう・・・。
その答えが聞けるのは、
やっぱりずっとあとのことなのだろうか・・・?